2011年10月13日木曜日

第4回「10の違うものが集まる100戸の集合住宅」


10の違うものが集まる100戸の集合住宅

環境問題も建築の重要な要素になってきた昨今、持続可能な建築の必要性も認められ、そのためのさまざまな技術(長期優良住宅、スケルトンインフィル、環境配慮)も進化してきました。しかし、建築の持続可能性が実現されると、そこでの将来にわたる暮らしはどのようになるのでしょうか。それを考えるには、いろんなものが混じり合いながら、周囲や環境と関係を持ち、公共性があり地域に密着した、使い勝手を考えたものがヒントになるのかもしれません。そこで、10の違うものが集まる集合住宅を考えてください。多様な他者を受け入れ、関係をつくり出すことで、今の社会問題も引き受けた、将来の変化もふまえた生活が描けると思います。
10のどんなものが集まるのかは、自由に想定してください。10の機能を考えるだけではなく、年齢の違いや、身の回りのものを10集めることからも新しい関係がつくれるかもしれません。ただし、集合住宅であること、また内部環境も考えられていることは条件です。建築や社会のリアリティをふまえ、かつ自由な新しい提案をしてください。
[ 審査講評 ]
隈さん
集合住宅を人間とモノとの付き合いから再定義するかなり難易度の高い課題だった.集合住宅にはさまざまな側面があって,人間関係からもアプローチできるし,周囲との関係からもアプローチできる.そこで,実際人間とモノがどう付き合うか,その場がどうなっているかに注目してほしいと思ったが,応募案は意外に人間とモノとの関係がさっぱりしていた.人間とモノとの関係を抽象化したり個別化したりして,モノが消えている案が多かった.その中で濃密にモノが立ち上がってくるものが最終的に上位にきた.
「10 GROUNDSー大地の上で鼓動する建築・植物・街の活動ー」は大地というモノの中でもいちばん濃密で人間の身体と関係の深いものに焦点を当てていた.その着眼点や,大地というものの中に具体的に建築を組み込んでいく迫力を評価した.
「“とある”家族の10世代の記憶」は結局最後には人間は死ぬということをテーマに集合住宅を考えていた.普通,自分はこれが好きだとか,こういうものと暮らしたいとか,生きていることを中心に考えるが,この案では生と死という集合住宅では忘れられがちなことにぐっと迫っていた.一見するとただの塔状の集合住宅の中に時間が積層しており,空間の中に時間の概念を入れたこともおもしろかった.
設計にはいろいろな切り口がある.これからも単一の切り口ではなく,複眼的な切り口で考えてほしいと思う.
乾さん
今回の課題は建物が持続可能になり,長く使うようになった時に,どうやって将来的な変化に耐えられるようになるかということを問う大きなテーマだったと思う.
「10 GROUNDSー大地の上で鼓動する建築・植物・街の活動ー」については,建築やそこで行われる活動に新たな関係が生み出されるきっかけとして地面が扱われているところに魅力を感じた.
「のうぎょう×」は,10の違うものの次元がめちゃくちゃに錯綜しているのがおもしろいと思った.応募案を見ていると,10の違いが本来的な違いというよりバリエーションの違いに収まってしまい,こぢんまりとしている案が多い中で,この案はわざと次元の違うものを集めてきており,「違い」の意味をより深く考えていることを感じさせる案だった.
違いをバリエーションに還元させ,それを建築のデザインに落とし込む提案はたくさんあったが,「“とある”家族の10世代の記憶」はその中でもいちばんよかった.「世代」という比較的重いテーマを扱うことで,バリエーションのおもしろみを引き出している提案だった.
また,あまり都市的な視点からの提案がない中で「10の解像度をもつ集合住宅」は最も都市的な視点から集合住宅を捉えようとしており,ユニークで優れた提案だった.
藤本さん
「10の違うもの」という課題は,いったい何を持ってきて,どこからスタートすればよいか考えなくてはならない高度な課題だったと思う.
地面に着目した「10 GROUNDSー大地の上で鼓動する建築・植物・街の活動ー」はすごく本質的な提案だと思った.どこにでも地面はあるが,どう仕上げられているか,あるいはどういうテクスチャーを持っているか,本当はもっと豊かなはずなのに,現代の街の中では意外と単調になっている.そこに着目してもう一度都市の中に人間のための場所をつくっていた.
「浸透する都市〜moiré habitat〜」は大きなスケールから小さなスケールまで,スケールのグラデーションを使うことで都市とわれわれ日常の生活を結び付けようという提案だった.着想としてはおもしろかったが,並べ方,グラデーションのつくり方が乱暴だと感じた.もっと周辺環境の状況を考えることで,都市がそのままにじみ出たような場所ができるかもしれないと思った.
今回は10の違うものをどう設定するかが大きなポイントだった.いろいろな視点があったが,それをいかに建築や都市の,そして現実に移し替えていくか,そこに対する突っ込みが甘かった.実はそこが建築のいちばんおもしろいところ.勇気を持って現実の建築に立ち向かってほしいと思った.

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