2011年10月13日木曜日

第3回「30戸の住宅から生まれ変わる集合住宅」

集合住宅をつくることにより、敷地の中だけではなく、もう少し広い範囲での関係や影響が生じると思います。それを繋げていくことで、単体の建築ではなし得ない、居住環境を提案できるかもしれません。たとえば更地からスタートするのではなく、都心の住宅密集地で30戸分の住宅を建て替えることによって集合住宅をつくること。あくまでも建て替えであることを前提として、既存環境とも連携した新たな集合住宅を考えてください。この提案を通して、集合住宅が町並みやコミュニティへと繋がる方法を考えるだけでなく、さまざまな形態による家族の新しい暮らし方など、これからの都市や社会の重要なテーマも考えることができるのではないかと思います。もしかしたら、新たな集合住宅と既存環境との関係を考えることによって、環境と人の生活を連続させ、また、暮らしそのものが環境をつくってしまうような、周囲も巻き込んだ建築を生み出せるかもしれません。既存の30戸の住宅は自由に想定してください。また、新しい集合住宅の住戸数は自由とします。建築のリアリティに配慮しつつも、既存の街や外部ともさまざまな関係性の持てる、集合住宅ならではの可能性を考えてください。


[審査講評]


隈さん


既存の30戸が低層型のものだったため,その中でいったい何が集合性か,集まって住むことの意味とは何かを考え,答えを出した人が最終的には上位に入ったと思う.
最優秀賞「やねの森 roof forest」は屋根がつくり出す新しい集合性を示していた.以前からあったような屋根ではなく,新しい屋根のあり方を示唆しており,刺激的な案だった.半屋外空間が屋根の下にたくさん生まれ,それが重なり合いながら低層住宅の新しいタイプをつくっていた.
高さに対しては分かりやすい抵抗をしていた案が多かった中で,優秀賞「Above Us ー大きな広がりとともにある集合住宅ー」と「50%建築」はそれぞれ
ある程度の高さを持っていながら,抜けのよい快適な空間をつくっていた.これは世の中の高さ批判に対する,建築家サイドからのひとつの回答と言えるだろう.どちらも勇気のある回答だった.
少し残念なのは,
既存のものを残しながら,それを新しいものと組み合わせる提案がもっと見たかった.全体的に現状のものに対する観察が足りなかったように思う.

乾さん

課題となった敷地に対して30戸というのはかなり低密度であり,それを利用して面白いものをつくろうという案が多かった.その中で,低密度でありながら,それを周辺環境とどう繋げていくか回答しているものが最後まで残った.
最優秀賞「やねの森 roof forest」は周辺環境と連続させるために屋根を有効に使っていた.
屋根とボリュームの関係を従来のプロポーションから変形させ,異常に大きくなった屋根の下に公共的なスペースをつくる提案だった.風景としてすぐれていることに加え,公共スペースを周辺の商店街などに繋げて,うまく周辺の環境に応えていた.
優秀賞「Above Us ー大きな広がりとともにある集合住宅ー」は
屋根と地形の風景が近いのではないかという仮説を前提にした提案だった.屋根の風景がうまく神社に接続していくのではないかと思わせる説得力があったし,グラフィック的にも非常に魅力的だった
優秀賞「50%建築」では
建ぺい率のあり方を平面的にではなく,立面的に利用することで高層化しようという案だった.低層の案が多い中,数少ない高層の提案であり,開口を大きく取るなど,快適さに対する配慮もあった.
既存建築の外壁だけ残して中身を取り払い,そこにガラスの箱を入れて半公共的空間をつくる佳作「野生の住宅群」も,周辺環境との繋がりという点でリアリティがあるアイデアだった.

藤本さん

昨年までは規模が大きかったので,条件と格闘するのが大変そうだったが,今回は比較的取り組みやすい規模で,周辺の条件も出ていたため,それらの条件を飲み込んだ上で,若々しい建築的な提案をしていこうというエネルギーが感じられた.
一方で,
低密度という条件に逃げ込み,集まって住むということを深く考えきれていないものもあった低密度だからこそ,もう一度集まって住むことや都市のことなどを考え直すよい機会だったが,一発のアイデアに頼った案も見られた.
その中で,最優秀賞と優秀賞の3つは別格でよい案だった.最優秀賞「やねの森 roof forest」は
屋根の上に屋根が重なる風景が危うくも見えたが,都市に住むための住居の提案であると同時に,今まで見たことのない巨大な公共空間,都市空間が見えていた.これは新しい発見がなされていると感じた.巨大ではあるが茫漠としているわけではなく,さまざまな場がつくられており,それらが一体的に解決された提案であったと思う.
優秀賞「Above Us ー大きな広がりとともにある集合住宅ー」も印象的な提案だったが,割り切りが良すぎるのではないかと思った.
街の風景などもっといろいろな条件を飲み込んで,案を成長させる余地があったように思う.もう少し突き抜けてほしかった.
優秀賞「50%建築」は既存の住宅地が持っていた
抜けのスケール感を1回再構築するという知的で鮮やかな提案だったが,最優秀賞と比べるときれいに完結している感じがした.

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