2011年10月13日木曜日

第1回「300人のための集合住宅」

集合住宅には都市の環境を享受しつつ、戸建て住宅にはない集まって住む楽しさがあるはずです.ル・コルビュジエは人間らしい生活を獲得するために、高層に集約し、地上に空地を確保して「300万人のための現代都市」(1922)を構想しました.そこで今、集まって住む、新しい集合住宅を構想してもらいたいと思います.条件は、日本で現実に集合住宅がつくられる密度です.300人のための集合住宅.敷地は東京に想定します.今までの常識だけに囚われることなく、規模や密度が生み出す新しい集合住宅を考えてください.オスマンによるパリの街区や、高密度の香港の街並みなど、集合住宅は都市を構成する重要な要素です.かたちは違いますが日本の、現代の都市の姿もその多くは集合住宅により描かれています.そうした都市への提案の可能性もある、新しい集合住宅を考えてください.

[審査講評]

隈さん

アイデアコンペの審査をしていると,主催者側の意図と応募案の内容が伴わないこともままあるのだが,今回のコンペは集合住宅という難しいテーマにも関わらず,全体のレベルは高いものだった.
集合住宅の設計には,一見矛盾するふたつの大きな課題がある.それは,
集合するということと家であるということをどう表現するかである.今回のコンペは,全体の傾向として「家でありたい」「戸建て住宅でありたい」という願望が強いように感じられた家が持つ独特の繊細さやかわいらしさといったものを300戸の中に保ちたいという気持ちが,どの案にもありありと出ていた.それは日本の若い人たちに顕著な傾向だと思う.普通にこの課題を解こうとすると,スラブを重ねて家を並べるという案になる.実際そういう案は多かったが,上位には残らなかった.家的なものを残した案は佳作の横山・中辻案(四畳半×300)である.この案は,四畳半にすれば平屋でも300戸が敷地に入ることを教えてくれた.また,集合住宅を設計していると,プランニングの問題ばかりを解こうとなりがちだが,実は表層があり,その表層に人間の個別性が表れるかもしれない.そのことをHernan・浅見案(都市の表情に住まう)は改めて教えてくれた.結果としては個別性と集合性の両方の問題をバランスよく解いたものが上位3案になったが,審査員をもっと驚かせる案があってもよかったと思う.

乾さん

このコンペは他にあまり例のないものだと感じた.なぜなら,ある程度の設計の密度が必要とされる集合住宅というプログラムが要求されたために,きちんとした設計コンペの側面を持ちつつも,アイデアコンペ的な側面も併せ持っていたからだ.そのためか,他のコンペではあまり見られない密度の高いアイデアが出てきたという印象だった.そうした作品群の中では,抽象的なイメージを持ちつつ,同時に,具体的な問題を解いている案がとても魅力的に見えた.中でも最優秀賞の高池・湯浅案(300人のランドスケープ)は特に鮮やかなものであった.300人という人間の多さを1.5kmという長さに置き換えて抽象化しながら,人が行動する時にその長さをどう感じるかという肉体的な問題へと具象化しており,これらのふたつの傾向が同時に提案可能であることを示していた.優秀賞の岡崎・上杉案(森を回遊する極細集合住宅)は,意図的に敷地を広げて,あえて集合住宅の密度を低くしているのだが,今後の集合住宅の傾向を示唆していると思う.同じく優秀賞の中村・田原案(300人が集まる大きな部屋)は,柱のように林立した集合住宅で全体の大きなボックスを支えるという構成が面白かった.また佳作の伊藤・祢冝・川端案(300人のための集合住宅)も興味深く見させてもらった.造形としては堅いのだが面白い風景になっていると感じた

藤本さん

今回のコンペでは,よい意味で新しい都市の風景,住み方の風景を夢見させてもらった.住むというリアルなことと都市の大きなビジョンが両立している案に共感した.最優秀賞の高池・湯浅案(300人のランドスケープ)は1.5kmという都市的な長さを巻き上げた大胆な案である.スロープの縁側のような部分があまりに均質なのが気になったが,それを含めても力量がある.岡崎・上杉案(森を回遊する極細集合住宅)は緑の中に分け入っていく都市の新たな風景をつくり出している.もっと立体的に,公園の中を通過する動線も兼ねたネットワークになっているとよかっ.大きな囲いの中が,内部のような雰囲気も漂わせつつ外部のようにも見える中村・田原案(300人が集まる大きな部屋)は非常に秀逸だと思ったが,同時にそれが,ただ狭い現代の価値観の中で,疑問を持たないまま成熟したようにも見えて不安でもあった.角野・市川案(猿的密度論)は体験してみたい.密集することで生まれる床スラブの重なりに着目した新しい集合の仕方だと思うし,身体的に楽しそうである.サボテンのような谷脇案(ほそながく,まとまった家)は,ふやけたようにものが密集する仕方とユーモラスな形がよかった.

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