2011年10月13日木曜日

第2回「30年後の集合住宅」

課題:30年後の集合住宅

建築にとって時間は重要な条件のひとつです。たとえば30年後のことを考えて、現在の集合住宅を設計するというのは、さまざまな状況を想定できる現実的で重要なことだと思います。30年後には住宅ローンを返し終わったり、子どもが巣立ったり、新しく生まれたり、高齢化がもっと進んだりするかもしれません。建物の改修や周辺の変化、地球環境や社会の変化もあるかもしれません。30年後にその集合住宅でどんなことが起こっているのかを想定して、現在の姿を提案してください。集合住宅を通して都市や周囲の環境、そこでの生活なども描けるかもしれません。そうした変化を想定しながら、楽しく住み続ける集合住宅のあり方を考えてください。
敷地は東京の運河沿い、現実に集合住宅建設が盛んな場所を想定します。既成概念にとらわれず、しかしリアリティのある新しい集合住宅を考えてください。
[審査講評]
隈さん

30年後,集合住宅はプライベートな空間を積層させただけのものではなく,何かを共有する場であるという前提で考えられた案が多かった.大きなテーブルをシェアしたり,固有の風景を共有することで共同体的な意識を生み出すといった案が印象に残った.また,プライベートなセルと開かれたパブリック空間のふたつで集合住宅を再定義しようとする傾向が強かったが,パブリックをどう定義するかを曖昧なままにしていた案が多かった.そこをはっきり定義させた案が最終的に勝ち残ったと思う.
最優秀賞「小さな都市,大きな家族」はバスケットコートや子どものためのスペースなど,都市において社会的な意義を持つパブリック空間を巧みに配置している.現在でも,30年後でも通用する場を,空間的にもはっきりと定義しているところが興味深い.プライベートとパブリックの関係性にもリアリティを感じる.
優秀賞「庭と部屋の塔」は単なるバルコニーではない空中庭園を全戸が持っている20世紀的な超高層ではなく,21世紀的な「庭園型超高層」とも言えるモデルによって,環境問題に対する新しい視点を提示している.環境に対する提案の中ではこの案が最も明るい未来を描いていたように思う.優秀賞「∞familyのための集合住宅」は個室の関係性の選択によってどんな家族でも住み得るというような,家族関係にまで踏み込んでいる点が興味深かった
また建築を植物や大地のようなものに還元していく提案も多くあった.それらのうち,入選したのはいずれも建築と自然や植物が融合することで生まれる不思議な姿をクリアに表現したものである.

乾さん

30年という時間軸を踏まえた時に,集合住宅がどのように変容するのかをクリアに表現できている案が上位に残ったように思う.応募案の傾向のひとつに,集合住宅が「住む」という単一の機能を超えて,都市的,複合的にならざるを得ないという前提で考えているものが多く見られた.これはル・コルビュジエの「ユニテ・ダビタシオン」のように以前からある考え方ではあるが,上位に残った案は,いかにユニテ型ではない方向で建築化していくかを考えているものである.最優秀賞「小さな都市,大きな家族」はユニテのように機能を断面的に積層させるのではなく,平面的に展開している.これによってパブリックとプライベートが空間的に関係を持たざるを得ない状況をつくり出し,住環境そのものを変容させることを試みている.明快かつ居住空間の変容ぶりも鮮やかで,楽しさを感じる提案である.
集合住宅がスラブを人工的に積層させたものであるという前提に立つならば,優秀賞「庭と部屋の塔」の積層させること自体には新しさは感じられない.しかし,この案の特徴は疎な大地を塔状に積層させたところにある.ポエティックではあるが,30年の間にその平面がどのように変化するのか,リアリティを持って表現している点が評価できる.
もうひとつの傾向として,集合住宅の共用空間は今後大きくなっていくという前提で考えている案が多く見られた.優秀賞「∞familyのための集合住宅」もそのひとつである.平面を見るとパブリック空間とプライベート空間を市松模様のようにシステマティックに配置している.それぞれ特定の機能を示唆しないことによって,30年後,どのように使われているのか,こちらの想像をかき立てるスマートな提案であった.

藤本さん

前回,今回と審査を通して,改めて集合住宅の設計は難しいという印象を受けた.人が集まって住むことで,都市的な活動も生まれるし,もちろんプライベートな活動も営まれる
今回の提案には,さまざまなものが30年の間に変わっていく状況の中で,変わらない部分をどうデザインしていくのかという視点に立った提案が多かったように思う.僕は変わらない部分が今の建築を超えている提案や,佳作「ヤマ・タニ・オカ」のように,変わらない部分がまるで地球の一部になってしまっているような提案に興味を持ったそのような案が建築の可能性を少しでも広げていくのではないかと考えている.最優秀賞「小さな都市,大きな家族」は通常住居にはないような大きなスペースをつくり,住宅という機能から離れた大きな空間を内包している.住む場所は人間に合ったスケールだが,大きな空間は30年先まで考えるとさまざまな使い方を予感させる.それをスマートに空間に落とし込んでいる.しかし一方で,僕らが知っている建築からどれだけ飛躍できているのか,まだその範囲に納まっているのではないかという印象も残った.もっと過激であってよいと思う.
全体に,インフラなどの変わらない部分と変わる部分を分けて骨格をつくっていく案が多かった中,優秀賞「庭と部屋の塔」は塔状の山とも言えるような自然環境が建ち上がって,そこに人間が住み着いていくというストーリーが興味深い.ただ,こちらも最優秀案と同様にスケールの設定が既存の住宅のレベルに納まっている部分があり,もっとダイナミックな提案ができれば都市の風景の変化に繋がっていくのかもしれない.
今年は30年という時間軸も設定されたので,さらに複雑性は増して,難しいけれど面白い課題になった.

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