サッカーの空間を飛び回って体験するのはボールである。自由に多彩な移動をする。そのボールの移動する方向を変化させるものがプレーヤーであり、建築でいう壁である。
今回の提案では、ボールの視点でサッカー空間を表現することで、サッカー空間の建築化を試みる。ボールが空間を移動するように、建築の中を人が移動する。
対戦する2チームはボールを移動させる方向がことなる。よってどちらも壁であるが性質の異なる壁になるのではないだろうか。
壁は厚さと高さの設定が必要である。壁の高さはその巨大さで存在感や空間の圧迫感をつくりだし、壁の厚さは空間に堅く重い緊張感のあるイメージを与え、簡単には破れない。
プレーヤーがボールに対してどんな時に巨大さや存在感を持つか、または堅く重いイメージを与えるだろうか。
ボールとプレーヤーが近いとき、ボールにとってプレーヤーは巨大で、存在感をもつものとなる。ボールとプレーヤーが離れているとき、巨大さや存在感は感じない。壁の高さはプレーヤーとボールの距離だろうか。近いほど大きい。
では壁の厚さはどうだろう。ボールに対するプレーヤーの体勢だろうか。
ボールに対して奪おうと身構えるディフェンスや、ボールを受け入れようとするオフェンスにどんな違いがあるだろう。デイフェンスの隙をみて奪う雰囲気には緊張感が漂う。しかしオフェンスが簡単に破れるものだということでもない。
オフェンスとディフェンスの違いはないのか。プレーヤーがボールに対して、正面を向いているならばボールにとってプレーヤーは簡単に通ることのできない壁となる。
オフェンスをディフェンスの違いはなく、単なる壁として表現されるのか。
ボールをもつ選手はどうだろう。ボールとの距離が最も近く、最も大きくなるのか。
最後にボールの速度による時空の歪みをどうするか。
ボールが移動するスピードに対してプレーヤーが移動する速度は遅い。
プレーヤーが密集し、狭い空間でもボールが早ければパスは通り、遠くのプレーヤーにもパスを通すことができる。
ボールの速さは空間を広くし、近づける。ボールの遅さは空間を狭くし、遠ざける。
この速度と空間の広がりや近さの関係を翻訳し、サッカー空間をゆがめて、人間の体験する建築とする。
サッカー空間をボールの視点で空間化して生まれたものに対して人間はどのようにふるまえばよいか。